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No.4「ついてないなあ」
2007-04-14 Sat 16:59
 アメリカ合衆国にあるセカンドサウスは、突然降り出した雨に包まれ、本来の夏の輝きを灰色の世界に閉じ込めている。長いブロンドの髪を太陽ではなく室内灯に反射させて、窓ガラスの向こうの風景を眺めながら、ジェニーはつまらなそうに溜息をついた。降り出したとき、運良くカフェの前に差し掛かっていたジェニーは全く濡れずに非難することが出来たのだが、生憎と傘の持ち合わせもなく、子分達とも連絡がつかない。 30分もこうしているので、さすがに退屈になってきたようだ。
 ジェニーは大層美しい女性で、またどこか高貴な雰囲気を持っていた。それもそのはずで、彼女の本名をジェニー・バーンという。イギリスのバーン家といえば世界有数の資産家でジェニーはその一人娘なのだが、そのような生活に嫌気が差し、ある日家を飛び出してしまったのだ。現在は潜水艇を駆り、子分を率いて、リーリンナイツと海賊の頭を務めている。海賊といっても、あくどい所業で稼いでいる裕福層を標的と定め、貧しい人々にそれを配るという義賊的なものではあったが。
 つい1ヶ月ほど前にこの街で行われた格闘大会“ Maximam Mayhem KING OF FIGHTERS”に出場したのも、その裏面にきな臭さを感じ取ったからなのだが、残念な事に優勝は叶わず、宝箱は彼女の手をすり抜けていってしまった。だがその中で知り合った幾人かとは現在も良い関係を築くことが出来ており、全くの無意味というわけではなかった。
 今日もその中の二人、キム兄弟と会う為にセカンドサウスのコリアンタウンへ出かけ、その帰りに降られてしまったのだった。連絡しようかと思ったのだが、帰り際に見た光景――兄のドンファンを「今日こそは真面目にやってもらうよ」と道場に引きずっていくジェイフンの姿を思い出して、やめた。おそらくドンファンは喜んで来てくれるだろうが、ジェイフンに恨まれるのは避けたいところである…。
 ぼんやりと眺めていると、黒塗りの高級車が信号で停まるのが見えた。
「お宝持ってそうな車よねん。でもこの雨じゃ、そんな気になれないけど」
 そう呟いて再び溜息をつきかけたジェニーだが、それを飲み込んだのは、車から一人の少年が押し出されてきたからであった。ややくすんだ色調の金髪は基本的にストレートだが、伸びた先端に軽く癖がついている。均整の取れたすらりとした肢体を黒いTシャツと、同じく黒の革のパンツに包み、赤地に黒と白で切り替えしのついたショートジャケットを羽織っていた。その手に傘を押し付けると、少年が抗議する間もなく車は走り去ってしまい、困ったような表情をジェニーに向けた。彼こそがジェニーから勝利を奪い、大会で優勝した、ロック・ハワードである。ジェニーが微笑んで手を振ると、一瞬、去就に迷ったようだが、傘を片手にカフェのドアをくぐった。

 ウェイターに注文を言いつけて、まっすぐジェニーの元に歩み寄る。
「久しぶ…」
「ついてないなあ」
 不機嫌な表情で不機嫌な台詞を挨拶にかぶせられ、ロックは目をぱちりと瞬かせる。
「さっき、そう思ったでしょ」
「え!?お、思ってないよ」
「だってさっき、すごーく困った顔で見たじゃない」
「あ、あれは、その、誰かと約束してたり、とか、俺邪魔じゃなんじゃないかとか、思っただけで」
「じゃあ何で今も目を合わさないのよ」
「そ、それは!…そういうカッコしてるから、どこ見ていいのか分かんなくて…ごめん」
 耳元まで赤く染めて、呟くように謝る。チューブトップにホットパンツという肌を惜しげもなく晒したジェニーの服装は、ロックにとって刺激が強すぎるようであった。何しろ男ばかりの中で育ったので、女性に対する免疫が著しく欠如しているのである。また大会に出場した際のジェニーは、背中を大きく開け、足の付け根までスリットが入った大胆なドレスをまとっていた。張りのある豊満なバストはふるふると揺れ、くびれたウエストから続くメリハリのある脚線美が、惜しげもなく披露される。動くたびに扇情的な光景が繰り広げられ、ロックとしては落ち着かないことこの上なかったに違いない。試合の後、なるべく視線を合わせないようにしてロックは言った。
「悪いけど、その格好で戦うの、やめてくんないかな…」
 それを思い出したのか、ジェニーが吹きだして、笑う。
「わ、笑うなよ」
「あはは、ごめんごめん。…ロックが嫌じゃないならいいのよ」
「嫌なわけないだろ。…というか、その、もういないと思ってたから、会えてよかった」
「ロック…さっきは悪かったわ。あたしも、会えて良かった。今日ね、ドンファン達のとこに行ってきたの」
「へえ、いいな。元気だった?」
「もちろん!ジェイフンなんか、道場までドンファンひきずってくぐらいに元気よ」
「はは、二人らしい。…兄弟って、ちょっと羨ましいな」
「そうね、あたしも一人っ子だからわかるわ、その気持ち。でも、兄弟と生き別れになる辛さは、想像するしかないけど」
「…生き別れ?」
「ホタル・フタバ、覚えてるでしょ?」

 確かにその名前はロックの記憶にあった。大会の参加者とは思えないほど線の細い日本人の少女だが、中国拳法のかなりの使い手であった。ロックの育ての親であるテリー・ボガードと戦って惜しくも敗れたが、好ゲームを繰り広げて観客を沸かせたものだった。
 ジェニーの話によると、そのほたるは生き別れの兄を探しているという。大会に参加したのも、その兄らしき人物が参加者にいると聞いたからである。だがその兄の容姿についての記憶が、ほたるにはない。記憶を失うような事が、ほたるの身に起きたのだろうか…?
 その辺りの詳しい事情はジェニー達も知らず、入手した情報は今年で26歳になる日本人で、やはり中国拳法の使い手であるという事だ。ただしほたるが柔系であるのに対し、兄のほうは剛系であったらしい。
 そこまで聞いたロックの頭には、ある人物が浮かんだ。同じく大会の参加者で、ロックの対戦した相手の一人、牙刀という青年。年齢は流石に分からないが、八極拳や心意六合拳などの剛系の中国拳法を駆使して戦う猛者で、かなり苦戦した記憶がある。
「大会の後行方が分からなくなってね。うちの子分や、ドンファン達の道場の人にも探してもらってるんだけど、今のところさっぱりよ」
「そうだったのか…わかった。俺も協力するよ。皆にも協力して貰えるよう頼んでみる」
「皆?」
「…カインの、ファミリーの人達」
「…仲良くやれてる?」
「うん、良くしてもらってる。最初は、まあ、カインと色々あったんだけど。…俺さ、ずっと俺の事を気にかけてくれるのは、テリーとテリーの仲間だけだって思ってた。嫌じゃなかったし、それでもいいって。でも、最近気がついたんだけど。俺って、もっと色んな人に、大事に思われてたんだな」
「あったりまえよん!ったく、鈍いんだから」
「ごめん」
 もう一度、ロックは謝った。だが先ほどとは異なる、晴れ晴れとした、少しだけ大人びた笑顔が、雨の街で眩しく見えた。
 ようやくウエイターがカプチーノを運んでくる。優しいスチームミルクの泡が、とても似合う気がしてジェニーはじっと見つめた。
「飲む?」
「えっ?」
「いや、カップ、空になってるから。あ、紅茶のほうがいいのかな」
「あ、ううん、平気。ありがと…あ!」
 いつも間にか小降りになっていた雨がついにやんだ。そして、雲の隙間から一条の光が差し込み、それはみるみる勢力を拡大していく。水滴が光を反射し、街がプリズムに包み込まれる。
 ロックは運ばれてきたばかりのカプチーノをぐいっと飲み干すと席を立った。
「また振り出さない内に行こう。送るよ」
「そうね、ありがと」
 店内から外に出た瞬間、ひんやりとした空気が二人を取り巻いた。見るとジェニーが寒そうに身震いしている。
「この寒さ、反則よねん!夏だって言うのに…」
「…あ、あのさ、ジェニーが嫌じゃなければ、だけど」
「ん?ジャケット、貸してくれるの?」
「…うん」
「寒くない?」
「え?俺?俺は平気」
「じゃあ遠慮なく」
 手渡されたロックのジャケットを着込んで、ジェニーは満足そうに笑った。それを見たロックは、何故か落ち込んだようである。歩きながら息を吐き出す。
「どうもこういうのは苦手で、もっとスマートに出来れば良かったんだけど。こう、さりげなく肩にかけてあげるとか…駄目だな、俺」
「肩に、掛けてくれるの、ロックが?」
 想像したのか、ジェニーはおかしそうに笑った。苦情を言いかけたロックも想像し、思わず吹き出してしまう。
「似合わないな」
「そうね。でもあたし、ロックのそういうところ好きよ」
「え…!?」
「あーもう、いちいち赤くならない!」
「え、あ…うん」
「わかればよろしい。あ、そういえば帰りどうするの?歩き?」
「途中までは。電話して適当なとこで拾ってもらうよ」
「電話って、携帯持ってんの!?」
「あるよ」
 ほら、とポケットから取り出す。
「メール、出来るのよね?」
「そりゃメールぐらいは。日本の携帯ほど多機能じゃないけど」
「貸して。もう、何で最初に言わないのよ!登録して1時間ごとにスパム送ってやるんだから」
 手際よくアドレスと番号を打ち込むと、携帯電話をロックに返す。
「手始めにドンとジェイのアドレス送るわ。…二人とも心配してたから、連絡してあげなさいよね」
「…そうするよ。ジェニーのホテルって、そこ?」
 目の前の信号を渡ったところに建つのは世界的に有名なホテルで、夕陽を浴びて白亜の外観を薔薇色に輝かせている。ロビーにともった灯りが、きらきらと眩しい。ジェニーが泊まるには相応しい所であろう。
「そうよ。ラウンジでコーヒーでも飲まない?ここまで迎えに来てもらったら?」
 頷きかけて、ロックは首を横に振った。
「いや、俺はここで帰るよ。渡ってすぐだし」
「…最後まで、送ってくれないのね」
「えっと、その代わりというか、上着は着てっていいから」
「え?」
「次に会う時、返して」
「…次って、いつ?」
「メールするよ、それで決めよう。…嫌かな?」
「女慣れしてないだけで、こいつ、意外と素質あるんじゃ…」
「何か言った?」
 次の瞬間、ロックの左頬に柔らかく、瑞々しい感触が伝わった。唇を離すと、ジェニーは悪戯っぽい表情を浮かべる。
「OKって言ったのよん。じゃ、またね!」
 燕の様に軽やかに身を翻し、ジェニーは走り去っていく。左頬に手を当てたまま立ち尽くすロックは、ジェニーもまた落日と同じ程頬を紅潮させている事を、知る由もなかった。

                            <了>
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