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No.6 「本当はイヤなんだけど」(後編)
2007-06-06 Wed 00:00
「…僕ね、真田くんと何回か同じクラスだったんだ。去年も一緒だったし、真田くんが…編入してきた時も」
「……」
二人はほぼ同時に、自分のグラスに視線を落とした。十年前、明彦と真次郎のいた孤児院が火事になったこと、その時に明彦の妹が命を落としたこと、引き取った養父母が明彦を心配して生徒数の多い月光館へ編入させたこと…。それらが脳裏に浮かんで、いつまでも消えなかった。
「だから、妹さんのこととか、知ってて…。僕だけじゃない、あの時のクラスメートはみんな…初めて会った時は凄く心配だった。ほとんど喋らなくて、給食も食べられないみたいだったし…」
「…だろうな」
「でも、少しずつ元気になっていって、僕達も嬉しかった。中等部から始めたボクシングは負けなしで、スカウトや取材もいっぱい来てる。あの時のクラスのみんな、真田くんに触発されててね。特に運動部の人は種目は違ってもライバル、って感じで、去年の中等部主将の半分以上がそうなんだ」
「…ふん、アキでも、たまには役に立つんだな」
「あはは、真田くんが聞いたらガッカリするよ」
「勝手にすりゃあいい。…で、結局、何の話だ?」
再び問われた平賀は、まっすぐに真次郎を見つめた。
「…真田くんは、凄い人だと思う。その真田くんを近くで見てきた荒垣くんの目に、僕はどういう風に映ってるのか、気になっちゃって…」
「俺の目ァ、そんな大したもんじゃねえ。大体聞いてどうする?俺の言ったこと、鵜呑みにすんのか」
「…そう、だね。聞いても、どうしようもない。…僕、このままだと医者になって、ゆくゆくは病院を継ぐんだろうな」
平賀はため息をついて、寂しそうに笑った。
「本当はイヤなんだけど」
そう言ってから、慌てて手を振る。
「あ、医者が嫌いってことじゃないよ。医学は尊いものだと思うし。でも…僕が自分で決めたんじゃなくて、最初から決まってて、僕は決められた通りに生きてきて…。これからも、そうなのかと思ったら、何だか気が滅入ってきちゃった」
「…そうか」
「うん。ごめん、ただの愚痴だよね、これ。忘れてくれていいから」
「…アキは」
「え?」
「お前が思ってる程凄くねえ。アイツは一見しっかりして見えるが、実際は自分のことで手ェいっぱいだ」
おまけに暑苦しくてうざってぇ、と言いかけて飲み込む。
「とにかくアイツには、選択肢がひとつしかなかった。お前との違いはそれだけだ」
「選択肢…?僕にも、医者になる以外、ないような気がするけど…」
頭(かぶり)を振って真次郎は答える。
「職業の話じゃねェ。”生き方”の問題だ。アキには迷ったり、考えたりする余地がなかった」
…十年前の事故で明彦の心を最も苛んだのは、助けられなかったことではない。大人達の制止の手を振り払えず、助けに行くことすら出来なかった。炎と煙に巻かれ、自分を呼んでいたのに…。
それ以来明彦は強くなることを決意し、親友以上の友と誓い合ったのだ。自分達だけでも生きていけるよう強くなろうと。まるでそれだけが償いであるかのように。
平賀もそこまでは知らないが、生き方や人生を決定づける体験は、まだ自分にはない。いや、もしかするとあるのかもしれないが、少なくとも現時点でその自覚はなかった。
「…荒垣くん、僕は考えたり迷ったりしてもいい…のかな?」
「さぁな。そいつは俺が考えることじゃねェ」
「……そうか、そうだよね。ねえ荒垣くん、さっき言ったよね、真田くんは自分のことで手がいっぱいだって」
「あ?ああ…」
「考えてみたら、僕はそういうのなかった気がする。だから、そこから始めてみるよ」
まだ少し迷ってはいるが、先ほどよりも力強い笑顔を真次郎に向けた。それを受けて真次郎も微かに笑ったようである。
「…そうか」
「だからね、荒垣くん。やっぱり今日の話忘れて。なかったことにしてくれる?そのかわり僕の手がいっぱいになったら…借りてもいいかな」
「…空いてれば、な」
「うん!」
実を言うと真次郎は一瞬だけ返答に困った。しかし、ほんの一人ぐらい、他の人間と関わるのも悪くないと思い直したのである。嬉しそうな平賀を見ていると、その判断は間違っていないように真次郎には思われた。


それから数日後…。
九月から十月へ時は移ろい、最近は太陽も幾分か穏やかになりつつある。秋はより深みを増して冬へと向かっていくであろう。
そのような中で、二人はよく言葉を交わすようになっていた。級友達は異色の取り合わせに最初驚き、今では物珍しそうに見守っている。
放課後になり信次郎が帰り支度をしていると、平賀が声をかけてきた。
「荒垣くん、帰るの?」
「ああ。お前、まだ帰んねぇのか?」
「うん、僕ね、美術部に入ったんだ。ちょうど再募集してたから」
「…そうか。まァ、頑張れ」
他人事としか取れない言い方でエールを送った真次郎に、平賀は無形の爆弾をそっと投げつけた。
「荒垣くんも一緒にやらない?」
「は!?」
「部活、どこにも入ってないよね」
「そりゃ入ってねェが…勘弁してくれ。俺ァ絵心なんざねえよ」
「大丈夫、そんな堅苦しい部じゃないから。活動も週3回だけだし、毎回出なくてもいいんだよ。気が向いた時に、暇つぶしで来てくれたら」
「…何で俺を誘う?」
「何でって…荒垣くんといるの楽しいから。定員、まだ余裕あるし」
「…変わった野郎だ」
「見学だけでいいから、今度部室に来て。返事はそれからでいいよ」
「…考えとく。あんま期待すんなよ、じゃあな」
「うん、また明日」
平賀の声を背に受けて教室を出る。入部はともかく、一度顔を出すぐらいはするかと思いながら。
しかし、その約束が果たされる事はなかった。幾人かの人生を大きく変えた十月四日。それはもう目前まで迫っていた。そしてその日を境に真次郎が再び登校することは、彼が短い生涯を終えるまで、遂に訪れなかったのである。

                             <了>

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