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2008-01-02 Wed 18:40
天田の言葉は性急過ぎたと言ってもいいだろう。明彦が頷けば天田はもちろんの事、美鶴やゆかりも傷つけることになりかねない。真次郎の死が事件に起因するものであるとするなら、美紀の死因は桐条グループによってもたらされたと言うべきなのだ。
十年前という言葉は、時間や時代以外にも大きな意味があった。当時桐条グループの総帥・桐条鴻悦は途方もない虚無感に覆われており、巨額の資金を投じて滅びについての研究を行っていたのだ。その実験は最終段階に於いて、多くの人命が失われる爆発事故を引き起こした。事故現場はここポートアイランド。事故が飛び火して施設の火災に繋がった、少なくとも事情を知る者はそう思うに違いなかった。そして美鶴は桐条宗家の、ゆかりは研究主任・岳羽詠一郎の、それぞれ一人娘である。
元来明彦は口下手な性質で、とっさに気の利いた返答など出来るものではない。返答に困って思わず反問する。
「…寒くは、ないか」
大丈夫です、と答える語尾にくしゃみが重なる。先ほど順平から受け取った上着をかけてやると、軽く微笑んでから目を伏せた。言葉を選びながら、ゆっくりと語を繋ぐ。
「そうだな…美紀の件は、確かに俺にとって長い間辛い記憶だった。俺は兄として生まれたのに、守るべき時に守る事が出来なかった。他の誰でもない、自分が許せなかった。お前の母親の時もそうだ。ほんの少しとはいえ、俺の方が先に特別課外活動部に入ったんだ。あいつとの付き合いも長かったし、俺がフォローすべきだったんだ。そうしていれば、あの事件は未然に防げただろう」
「真田さん…」
「だが、シンジの件は違う。9月の作戦の後、自分にはやるべき事がある、あいつにそう言われてな。その時はわからなかったが、今ならわかる。やるべき事はふたつあったんだ。ひとつはお前の復讐を受ける事」
悲しげな視線を地に落とす天田に、明彦はもう一度笑いかけた。
「もうひとつは、お前を守る事だ」
少年は、はっと顔を上げ、そして繰り返すように呟いた。
「僕を、守る…」
「そうだ。お前の怒りを真っ向から受け、そしてお前の命を守った。あいつはやるべき事を全て成し遂げて死んでいったんだ。俺はあいつの友であることを、何よりも誇りに思うよ」
「でも…でも、荒垣さんに生きていて欲しかったって、そういう気持ちもあるでしょう?」
「そうだな、無いといったら嘘になる。だが俺は“今”に納得してる。だからこれでいい」
「…何でです?何で、そんなふうに言えるんですか!?」
「何でって…わからないか」
「わかりませんよ、そんなの」
「お前が生きてるからだ」
「え…?」
天田は大きな瞳で明彦を見つめる。その視線を真っ直ぐに受け止めた。
「お前が今、こうして生きている。お前には“たったそれだけのこと”かも知れん。だがその“たったそれだけのこと”で、お前が思ってるよりもずっと多くの人が救われたんだ」
明彦の脳裏に様々な顔が浮かぶ。真次郎と美鶴ほ勿論のこと、今は無き美鶴の父・桐条武治。彼もまた事件に心を痛めていた一人であった。明彦たちをよく知る黒沢巡査も随分と心配をしてくれた。そしてここにいる仲間達。もし天田まで斃れていたら、もし逆に死んだのが天田であったら、彼らの前には救いの無い未来が広がっていた筈だった。特に後者であれば、真次郎は間違いなく自ら命を絶ったろう。同じ短い生涯でも全く逆の結末である。
「適性が不安定であり、忠告を受けながらもそれを容れず、重大な事件を引き起こした。そして二年後、事件唯一の生存者である少年を守る事もできずに自殺した。特殊課外活動部にもたらしたのは被害と損害ばかりで、何一つ報いる事がなかった」
第三者からはそう評されるに違いない。他人の批評はともかく、本人がもっともそう感じるであろうことが、明彦には耐えがたかった。更に明彦にとって辛いのは、関わった全ての人が自分の内に責任を求め、誰一人として救われないという事である。それを未然に防いでくれたのは、紛れもない少年の功績だった。
「天田、皆に代わって礼を言う」
明彦は体ごと天田に向き直る。
「生きててくれて、ありがとう」
そういうと明彦は深く頭を下げた。慌てて天田がその身を起こす。
「や、やめて下さい、真田さん!僕、そんなつもりじゃ…」
「わかってるさ。俺がこうしたかったんだ、いいだろう?」
「でも…」
「こんな機会じゃないとなかなか言えんしな。こういうのはどうにも照れくさくていかん」
言葉とは反対に、照れた様子もなく明彦が笑う。
「真田さん…」
天田少年の目から涙が流れて、小さな拳に熱い水溜りを作った。
自分は何と幸福なのだろう、そう思う。同時にかれられた言葉の重さを思わずにはいられなかった。敬愛する先輩は、皆を代表して言ったのだ。
「生きててくれて、ありがとう」
と。その言葉に相応しいだけの人間に、これから成長しなくてはいけなかった。それは途方もない約束に思えたが、そう言ってくれた人達に決して後悔させてはいけなかった。もしその様な事があれば、その時こそ彼らに見捨てられるであろう。そして二度と、仲間と呼んでもらえないに違いなかった。それだけは絶対に避けなくてはいけない。自分の為にも、相手の為にも。
天田は拳でぐいと涙を拭った。泣いてる暇などないのだ。
「真田さん」
「ん?」
「僕、負けませんから。絶対に、ニュクスになんて負けませんから」
「…ああ、頼りにしてるよ。な?」
振り返った先で、春樹が夜色の髪を揺らして頷く。
「ええ。順平とは比較にならないくらいに」
「オマエまだ言うか!」
「…冗談だよ。順平も頼りにしてるって」
「え…あー、なんつーか、気持ち悪ィな。やっぱさっきのでいいや、オレ」
「そう?じゃあ今後は一切サービスなしで」
「一切!?いやー、たまには必要だと思うケドなぁ。あ、ジュンペーデー作るってどうよ?週イチでオレっちに優しくするっての」
「てことは、週ロクで辛く当たっていいんだね。のった、作ろう」
「却下だ却下ァー!何だその発想は!!」
思わず天田が吹き出す。
「笑い事じゃねっつの、天田少年!」
「あれ、そうですか?僕はジュンペーデーいいと思いますけど」
「良くない!ちょっと真田サン、何とかしてよコイツら!」
「俺がか?仕方ないな…天田、三園、その辺にしてやれ」
「じゃ帰りに肉まん買って下さい」
「あ、僕コーンスープがいいです」
「何!?何で俺が…まあ、いいか」
再び笑顔が戻った天田に安堵したようである。その時、彼らの頭上で影時間が明けていった。街の人々は突如現れた集団に驚き、ぎょっとした視線を向けた。明彦はそれらを完全に無視し、立ち上がって手を差し伸べる。
「帰ろう、天田」
「はい、真田さん」
差し出された手を握ると、グローブ越しに体温が伝わってくる。その温かさを、彼はいつまでも思い出すことが出来た。
銀色の月に見送られながら、構内へ連れ立って消えて行く。時は2010年1月。世界の終わりは、もう目前に迫っていた。


                                  <了>
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